CSR・サステナビリティCSR ・ Sustainability

TCFD提言に基づく情報

トーモクグループは、2022年5月にTCFDへの賛同を表明し、同年からTCFDの提言に基づいた情報を開示しています。
気候変動は、緊急性の高い地球環境問題の一つであり、世界の経済・社会に大きな影響を及ぼすと理解しています。

当社グループは、気候変動を経営の最重要課題のひとつとして捉え、温室効果ガスの排出削減、エネルギーの効率的な使用を促進しています。今後も、当社グループの戦略・対応を積極的に開示し、その質と量を充実させていきます。

1. ガバナンス

図1 ガバナンス

当社グループでは代表取締役社長を気候変動対応を含むサステナビリティ戦略全般の責任者としています。

サステナビリティ委員会は、社長を委員長、生産、営業、管理の各取締役本部長を委員とし、年4回開催され、サステナビリティに関する方針の策定、施策の審議、目標の設定、並びに進捗の管理を行い、取締役会に報告します。取締役会は、サステナビリティ委員会からの報告を受け、課題への対応や設定した目標をモニタリングし、監督します。(図1)

サステナビリティ委員会の下部組織には、管理本部長をリーダーとするサステナビリティ検討プロジェクトチーム(以下、サステナビリティ検討PT)、社長をリーダーとするTCFD開示プロジェクトチーム(以下、TCFD開示PT)、管理副本部長をリーダーとするグループサステナビリティ連絡会議を設置しています。

サステナビリティ検討PTは、社長室、ESG推進室を事務局とし、生産、営業、管理、品質管理部門の責任者で構成され、サステナビリティ全般の各種対応や施策を議論しています。

TCFD開示PTは、ESG推進室、社長室、品質管理部を事務局とし、段ボール・紙器事業、住宅事業、運輸倉庫事業の各部門の責任者によって構成され、気候変動によるリスクと機会、各種対応について異なる事業の観点から議論しています。

グループサステナビリティ連絡会議は、社長室、ESG推進室を事務局とし、住宅、運輸倉庫事業の中核会社役員で構成され、各PTと連携し、グループ全体のサステナビリティの課題や気候変動対応について議論し、方向性を一致させます。また、グループ各社へ指示・助言する役割も担います。

各PTとグループサステナビリティ連絡会議は連携してサステナビリティ委員会に提案し、当該委員会は提案について審議を行います。

2. 戦略

2-1 マテリアリテイ

当社グループは、すべてのステークホルダーと当社グループへのインパクトの観点から、優先して取り組む重要課題を選定しております(図2) 。気候変動への対応は、最も重要度の高い課題の一つに選定し、取り組みを進めています。

2-2 対象事業

シナリオ分析の対象は、国内主要3事業(段ボール・紙器事業、住宅事業、運輸倉庫事業)の連結会社で、連結売上高の約90%を占めます。今後は、海外連結会社を対象に加え、シナリオ分析を充実する計画です。2023年度の事業別売上高、営業利益は図3のとおりです。

図2 マテリアリティ

対象事業
  • 段ボール・紙器事業(トーモク単体+連結7社)
  • 住宅事業(連結5社)
  • 運輸倉庫事業(連結4社)

図3 事業別売上高、営業利益

2-3 気候関連シナリオ

シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IEA : International Energy Agency)及び国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC : Intergovernmental Panel on Climate Change)が発行する資料を参照し、表1に示す2つの将来シナリオ(1.5℃シナリオ*と4℃シナリオ)を設定しました。今後も、最新データを使用し、その精度を高め、継続してシナリオ分析を実施します。評価結果は経営戦略に反映し、不確実な将来に向けたレジリエンスを高めていきます。

*1.5℃シナリオで推測データがない場合は2℃シナリオを使用

表1シナリオ設定

世界観 政策により気温上昇が抑えられる世界 気温上昇・気候変動が進む世界
1.5℃シナリオ 4℃シナリオ
概要 2100年の気温上昇が19世紀後半から1.5℃に抑えられるシナリオ。
規制強化により炭素税など移行リスクの影響を受ける。
物理リスクの影響は4℃シナリオに比べ相対的に小さい。
2100年の気温上昇が19世紀後半から4℃上昇するシナリオ。
異常気象の激甚化など物理リスクの影響を受ける。
気候変動に関する規制強化は行われないため、移行リスクの影響は小さい。



移行 IEA Net Zero Emission by 2050 (NZE)
IEA Sustainable Developement Scenario (SDS)
IEA Stated Policies Scenario (STEPS)
物理 IPCC RCP 2.6 IPCC RCP 8.5
  • IEA WEOにおけるシナリオは原則として移行リスク・機会を考察する場合に使用
  • SDSはIEA WEO2019を参照し、それ以外のIEAシナリオはWEO2023を参照
  • IPCC AR5におけるシナリオは物理リスクを考察する場合に使用
2-4 リスク・機会・戦略

想定されるリスクと機会を洗い出し、影響の大きさを定性的に大~中~小で評価しました。移行リスクと機会は、大きな影響が予想される1.5℃シナリオを、物理リスクと機会は同様に4℃シナリオをもとに考察し、リスク・機会への対応・戦略をまとめました(表2及び表3)。

表2 移行リスク・機会・戦略(主に1.5℃シナリオ)

表3 物理リスク・機会・戦略(主に4℃シナリオ)

  • 重要度の評価基準
    定性的な評価とし、大:事業が停止もしくは大幅に縮小あるいは拡大する影響がある、中:事業の一部に影響がある、小:軽微でほとんど影響がない
  • 発現時期
    短期:現在より概ね3年後まで 中期:2030年度まで(温室効果ガス排出量削減目標年) 長期:2050年度まで
  • 事業分類
    共)3事業分野共通 段)段ボール・紙器事業 運)運輸倉庫事業 住)住宅事業

2-5 事業インパクト評価

気候変動がもたらす事業インパクト(リスク)が当社グループの2022年度の営業利益に対し、費用として影響する増減額を評価しました。評価対象としたリスクは、移行リスクでは試算可能な炭素税、化石燃料価格、電力価格とし、物理リスクでは洪水被害、高潮被害、営業停止としました。他にも原材料価格の変動、売上機会の増加、環境投資等が想定されますが、推定が困難なため除いています。評価に使用した参考資料と試算方法は表4、試算に使用したパラメーターは表5のとおりです。

表4 移行リスク、物理リスク参考資料と試算方法

*International Energy Agency World Energy Outlook、為替レートは、IEA WEO 2023レポートで採用されている131.5円/USDを使用

**1年平均での被害額を試算

表5 移行リスク、物理リスク試算に使用したパラメーター

事業インパクトのシナリオ毎分析

2022年度の実績値(営業利益、化石燃料や電力使用量)に、2030年、及び2050年時点のシナリオを適用し、リスクとしての財務影響額を予測しました。

分析の前提とした温室効果ガス削減目標

【段ボール・紙器事業】

現在進めている2030年までに使用する電力をすべて再生可能エネルギー由来電力へ転換し、ボイラーや構内作業用リフトの環境対応により、温室効果ガス排出量を2013年度比50%削減

【運輸倉庫事業】

2030年までに使用する電力をすべて再生可能エネルギー由来電力へ転換

【住宅事業】

他の事業と比べると温室効果ガス排出量が極端に少ないため、2022年度の実績を採用

(注)表2,3に示す機会、及び戦略は試算が困難なため予測には考慮していません。

2050年の排出量は、2030年の目標達成時と同等と仮定し、1.5℃シナリオ、4℃シナリオ毎に目標達成前、達成後の財務影響額(3事業合計)を試算しました(図4,5)。また、影響が大きくなると予想される2050年については、3事業毎の財務影響額を図6、7に示しました。

図4 3事業合計の事業インパクト評価(1.5℃シナリオ)

1.5℃シナリオでは、政府による炭素税等の政策が大きく影響し、2050年では影響が拡大します。
シナリオ分析に使用したWEO2023の化石燃料価格は、基準年(2022年)の価格が大きく上昇し、相対的に2030年、2050年ともに基準年から大幅に価格が下落すると予測されているため(表5参照。昨年の事業インパクト評価で参照したWEO2022より価格の下落率は拡大)、評価では大きくプラスに影響し、事業リスクは緩和されています。化石燃料価格のパラメーターは毎年変動するものと理解し、炭素税等による事業へのインパクトに注視していきます。

図5 3事業合計の事業インパクト評価(4℃シナリオ)

4℃シナリオでは、 洪水被害とそれにともなう営業停止の影響が大きくなります。洪水と高潮被害額、洪水による営業停止損失額は、段ボール・紙器事業で国内38拠点、運輸倉庫事業76拠点、住宅事業106拠点を対象として試算しました。高潮被害は軽微でありますが、洪水被害と営業停止損害額は2050年で、営業利益に及ぼす影響は約6%になります。

図6 3事業毎の事業インパクト評価(1.5℃シナリオ、2050年)

1.5℃シナリオ(2050年)では、政府による炭素税等の政策が、化石燃料を多く消費する段ボール・紙器事業と運輸倉庫事業で大きく影響します。再生可能エネルギー由来電力への転換を中心に排出量削減目標を達成しても、その影響は大きく、今後は、化石燃料を使用しない次世代ボイラーやトラックの開発・普及に合わせて導入計画を策定し、化石燃料の使用削減に努めるとともに、カーボンクレジットによる補完の可能性についても検討します。

図7 3事業毎の事業インパクト評価(4℃シナリオ,2050年)

4℃シナリオでは、 洪水被害とそれにともなう営業停止の影響が、全国に主要拠点を配置している段ボール・紙器事業と運輸倉庫事業で大きくなります。
BCP体制の充実、従業員の安全確保を推進していきます。

2-6 戦略まとめ

  • 移行リスク・機会

(リスク)

2030年、2050年とも、1.5℃シナリオでは炭素税、化石燃料使用規制等の政策や規制導入により、化石燃料をボイラー燃料として使用している段ボール・紙器事業、トラックの燃料として使用している運輸倉庫事業において費用増加のリスクがあります。将来、グリーン水素を使用する次世代ボイラーやトラック等の脱炭素技術・インフラが普及すれば、新たな投資を計画し、対応します。また、カーボンクレジットによる補完の可能性についても検討します。
2030年までにこのような技術やインフラが十分整うのは難しいと予測されるため、当面は、再生可能エネルギー由来電力への転換、ボイラーの重油から都市ガスへの転換、構内作業用リフトのEV化、トラックの燃費や実車率向上等の現時点でできる堅実的な対応を続け、リスク低減を図ります。

(機会)

段ボール・紙器事業では、プラスチック規制により代替材としてリサイクル可能で環境に配慮した段ボール・紙器製品の需要拡大の機会が想定されます。住宅事業では、消費エネルギーの少ない高断熱・高気密の特長を有する住宅市場の拡大機会が想定されます。各事業において、デザインや技術革新を促進することにより事業機会を捉えていきます。

  • 物理リスク・機会

(リスク)

4℃シナリオの2050年では、異常気象の激甚化により、自然災害の規模が大きく、頻度が高くなることが予測され、各事業において、生産拠点や施工現場の被災、サプライチェーンやライフラインの寸断、従業員の被災等が発生し、生産や営業の一時停止、納期や工期遅延するリスクがあります。また、平均気温の慢性的な上昇により、労働環境が悪化し、生産性が低下するリスクも懸念されます。生産や物流バックアップ体制の強化、サプライチェーンの分散化、従業員の安全確保、作業環境改善、安否確認等の事業継続のための体制を整備、強化し、リスクの低減を図ります。

(機会)

段ボール・紙器事業、及び運輸倉庫事業では、配送サービス、飲料、災害関連製品の需要増加、住宅事業では、気温上昇が進んだ場合でも消費エネルギーの少ない高断熱、高気密の特長を有する住宅市場の拡大が見込まれ、各事業で事業機会を獲得していきます。

3. リスク管理

図8 リスク管理

気候変動に関するリスクについては、TCFD開示PTにて、コンサルタントの助言も参考に、グループ全体のリスクの選別とそれらが及ぼす財務影響額の評価を実施するとともに、必要な対策を検討しています。

グループにとって優先順位の高い、あるいは影響の大きい気候変動関連の重要リスクについては、TCFD開示PTとサステナビリティ検討PTで連携し、サステナビリティ委員会へ報告され、サステナビリティ委員会は、その対応を審議し、取締役会へ報告します。

当社グループでは代表取締役社長をリスク全般の管理責任者としています。リスク管理に関する重要な方針等の決定や見直しは、取締役会で、審議、決定されます。

サステナビリティ検討PTやTCFD開示PTで評価された気候変動を含むサステナビリティ全般に関するリスクは、サステナビリティ検討PTやグループサステナビリティ連絡会議を通してグループ各社へ対応を要請し、各社は各種対策を立案、実行します。サステナビリティ委員会は、サステナビリティ検討PTから報告を受け、進捗状況を確認、管理しています。 (図8)

4. 指標と目標

当社グループは、経営の重要課題である気候変動に関連する温室効果ガス排出量(Scope1,2)を指標とし、その削減目標を設定しています。一方、日本国NDCは、IPCC AR6 統合報告書やCOP28成果文書により変更される可能性があるため、当社グループ目標も随時見直していきます。今後も、再生可能エネルギー由来電力の導入、燃料転換、省エネ設備の導入を進めていきます。当面のロードマップは表6をご覧ください。

GHG排出量の削減目標 2030年までに2013年比50%削減(Scope1+2)
使用電力の再生可能エネルギー由来比率 2030年までに100%

表6 2030年までのロードマップ(国内3事業)

海外については、既に再生可能エネルギーが普及しているスウェーデンを除き、再生可能エネルギー由来電力導入の検討を進める

【2023年度結果】

2023年度の温室効果ガス排出量(Scope1,2)は、2013年度比約18%の削減となりました(図9)。
トーモク(単体)を中心に、Scope2に相当する電力を再生可能エネルギー由来電力へ切り替えたことが大きく貢献しています。 今後は、再生可能エネルギー由来電力のグループ会社への導入を進めるとともに、トーモク(単体)においても一層の取組みを進め、目標の達成を目指していきます。

図9 トーモクグループ温室効果ガス排出量(Scope1,2)

2023年度のサプライチェーン排出量(Scope1+2+3)は、約1,157千トンとなりました(図10)。Scope3が総排出量の約93%を占め、カテゴリー1(購入した製品・サービス)がScope3の約70%、カテゴリー11(販売した製品の使用)が同約18%占めます。カテゴリー1は段ボール・紙器事業の原材料である原紙関連、カテゴリー11は住宅事業で販売した住宅の使用が大宗を占めます。Scope3排出量はカテゴリー1の減少を主因に減少基調にあります(図11)。段ボール原紙の排出量に関しては、2021年度はIDEA Ver.2*、2022年度は、日本製紙連合会公表データ**、2023年度は、トーモク(単体)で購入した段ボール原紙の一次データ(購入数量の約47%)と日本製紙連合会公表データ**を適用しております。今後は、より実態に近い排出量を算定できる一次データの入手拡大に理解を得られるよう努めます。

カテゴリー11(住宅の使用)の比率が高いのは、当社グループ住宅事業の主力であるスウェーデンハウスの特長として、一次エネルギー消費量で省エネ基準を大きく下回るものの、耐用年数も90年と一般住宅を大きく上回る高い耐久性を有するためです。今後も、BEI(省エネルギー性能指標)の低い住宅の設計(2022年度実績0.61→2023年度実績0.58)を促進し、住宅の使用での排出量削減に努めます。

*一般社団法人サステナブル経営推進機構
**日本製紙連合会「段ボール原紙のライフサイクルにおけるCO2排出量」 2023.2.20

図10 トーモクグループサプライチェーン排出量(Scope1+2+3)

図11 トーモクグループ 温室効果ガス排出量(Scope3)